冷たい彼-初恋が終わるとき-
彼の愛したソプラノ

蓮side






中学三年。
俗に言う受験生。



「ねぇ蓮。アンタ、本当に城西でいいの?」

「…何だよ今更」 

「日莉ちゃん達と一緒の高校じゃなくていいのかって事よ。日莉ちゃんは目の保養だし、乙樹君は面倒見良いし、芽生君もしっかりしてるから、一緒の高校だとアタシも安心だからねぇ」

「…乙樹と芽生は兎も角、日莉に関してはどうでもいいだろ」

「よくないわよ!日莉ちゃんには学校にいるときのアンタの行動を逐一報告して貰ってるんだから!」

「…は?」

「アンタが問題児だからでしょーが。アタシはねぇ、全部知ってるのよ?アンタが、教頭先生はカツラって言う秘密を盾に、教頭先生を揺さぶってる事とか。あと、若い先生との不倫現場を押さえた写真を持ってる事も」



あの女何余計な事してやがる。
へらへら笑う日莉に舌打ちした。

『それにしても教頭先生ってカツラだったのねぇ。やだ、どうしよう。次お会いしたらアタシ、噴き出す自信あるわ。前から微妙に違和感があったのよ、あの髪』と悩むお袋はどこかズレている。



「お父さんは来年から海外出張で、アタシも着いて行くんだからアンタにはしっかりして貰わないと困るのよ。その点、三人がいると安心じゃない」



両親は来年から海外で、俺は一人日本に残る。

親父とお袋がいなくて気楽に過ごせると浅く考える俺と違い、両親は事態を重く受け止めている。つくづく失礼だ。

それもこれも中一の頃、煙草を吸ってるのを教頭に見つかり一週間の謹慎をくらったのが元種だろう。
それから何度か問題を起こしてはお袋は頭を下げ、親父は頭を抱えた。
因みに謹慎処分をくらわされた原因の教頭に逆恨みし、いくつか弱味を握ってる。



「…俺は、城西に行く」



誰がなんと言おうがこれは揺るがない。

城西工業高校。
男子校だ。

城西を選んだ事に意味はない。
ただ男子校と言うだけ。

乙樹と芽生は兎も角、日莉は絶対に進学出来ない高校を選んだ。せめて三人のうちの一人からは離れたかった。
特に、日莉とは。
来年からはこのくすんだ日常から逃げられることに安堵した。
これでやっと離れられる。



























   ーーだが。
そう上手く事が運べるわけもなく。
きっと色々チクったに違いない母親にたいして、盛大に舌打ちしてやりたくなる。



「蓮!俺も城西工業高校にするよ!」

「嫌ー!止めてー!そんな事したら私が行けないじゃん!蓮が志望校変えたらいいだけでしょ!芽生ちゃんからも何か言って!」 

「別に。どうでも」



三者三様。
乙樹は城西のパンフレットを手に詰め寄ってくる。
日莉は違う高校のパンフレットを持ってきた。
芽生は素知らぬ顔で欠伸。



「蓮!考え直して!一緒の高校行こう?」

「…無理」

「何でよ!」

「…もう城西って決めたんだよ」



冷たく言えば日莉は押し黙った。



「でも、蓮がそれほど城西に行きたかったなんて知らなかったよ」

「…言ってなかったからな」



急に口を挟んできた芽生に嫌な予感がした。



「ふーん。そんなに僕達から離れたかったわけ?じゃあ残念。蓮が城西行くなら僕も城西に行くよ。こんなにもからかいがいある奴って早々いないから、逃がすわけないじゃないか」



やっぱりだ。
腹黒い芽生に睨む。

コイツは俺と同じ高校に行きたいなんて微塵も思ってない。

俺と芽生が城西に行くと知れば、きっと乙樹も着いてくる。なら取り残される日莉は、縋ってくるだろう。

逃がさない、ってのはきっと本音だろうな。一瞬、獲物を逃がさない鷹の目をした。

睨む俺の傍では、芽生の言った"離れたかった"に反応したのか、泣きそうな顔をする乙樹がいた。

うるうるした目でこちらを見てくる。そんな顔されても城西への気持ちは薄れねえ。



「城西なんかより、ここの高校にしよう!
私達が進学希望にした高校だよ!」



  ーー白鴎学園。
それは都内でも有名な名門校だった。



「蓮、一緒の高校に行ってくれる?」



少し泣きそうな顔で俺の腕を掴んでくる日莉。
俺と同じ高校に行きたいからか。
ーー乙樹と離れたくないからか。
それを聞いたところで何かが変わるわけもない。


日莉の表情にグラリと揺らいだが、乙樹が日莉の肩を抱いたのを見て目が冷めた。
迷う必要なんてなかった。
もう日莉に俺は必要ない。
こんなに苦しい思いもしなくてすむから俺は日莉を突き放す。



「…断る。もう決めたことだ」



日莉も。
乙樹も。
傷付いたように顔を歪めた。



「…俺は城西工業高校に進学する」



しかしこの時はまだ知らなかった。
俺の本気を悟り、泣き崩れる日莉と、声を圧し殺して泣く乙樹に折れてしまうなんて。
結局は芽生に丸め込まれて半ば強制的に願書を書き直しさせられた。

待ち遠しかった来年が、一変。
今すぐにでもこの紙を破りたい。



「高校でもずっと一緒だよ?約束!」



このときから、憂鬱で仕方なかった。

第一志望
 ーー白鴎学園








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