冷たい彼-初恋が終わるとき-
この状況下でいつの間にか、私には一つの感情が芽生えた。例え始まりが不純でも、生まれた感情だけは否定されたくない。
黙って唇を噛み締める私に落合君は、微笑した。
「ありがとう」
ーーまるで氷山の一角に咲く一輪の花のようだ。
冷たい印象を受ける黒い瞳を細め、無表情を崩した。
不意討ちすぎて見惚れていると落合君はもう一度、微笑みながら言う。
「椎名さん、ありがとう」
パチン、とシャボン玉が割れたように我に返る。
「…え?え?」
何が何だか分からずに戸惑った。いきなり落合君の口から感謝の言葉が飛び出て、目蓋をパチパチと上下にさせる。
「蓮の傍にいてくれて、ありがとう」
私はてっきり桐生君と不純な理由で付き合ってる事を咎められると思っていたので、拍子抜けだ。