冷たい彼-初恋が終わるとき-
ふいに寂しくなっただけ

蓮side






真っ白の冬景色。
はらはら舞う粉雪。
誰もいない公園。
もうすぐ終わる。
そう思ったのは中二の冬。
乙樹が好き。
そう日莉に告白された。

身が凍るほどの寒さ。白い息を隠すように覆われる手は何故か震えていた。俺の足元に屈んで手と顔を赤くする日莉は、照れ隠しに雪を弄っていた。



「バレンタインデーに告白しようかなって考えてるんだぁ」



ゆっくり喋る日莉は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにはにかむ。きっと頭は花畑。あの、やたらとキラキラした笑顔を浮かべる乙樹が脳裏を過ってるんだろう。



「…で?」

「え?」

「…お前は俺に何が言いたいわけ?」



初めてかもしれない。
こんなにも日莉を睨むのは。
日莉が肩を震わすほど低い声を出すのは。

だが俺はわざわざ公園まで呼び出されてのろけを聞きにきたわけじゃない。芽生が下らなねえことを俺に言わなければ、きっと無視していた。乙樹の事で悩んで泣いてる日莉なんか。



「…あのさ、私、振られるかな?」

「…は?」

「…怖い、の。振られたら、どうしようって。今のままでも充分幸せなのに自分で壊すなんて馬鹿みたいじゃん。振られたらもうこの関係には戻れない。それが苦しいんだよ」

「……」



下らねえ事を考えてる日莉に正直呆れた。
今なら芽生が言ってたことがよく分かる。
勝手にしろって思ってたがこいつ等には致命的に足りたいものがある。



「…振られるのが怖いなら言わなければいい。ずっとそうやって悩んでろ。戻れないなんて、分かりきってる事だろうが。お前が乙樹を好きになった時点でただの"幼なじみ"でいられるわけねえだろ」



踏み込み、この関係を壊せる勇気がこいつ等にはない。だから日莉も乙樹も、ずっと悩んでこの付かず離れずの関係を貫いている。
俺みたいに。

だが俺は決定的に壊れると分かりきっているから何も言わない。困らせるだけの押し付けがましい気持ちは胸の奥深くに沈ませてある。



「…ずっと好きだった。幼なじみでもいい。乙樹の傍にいれるなら。でも、バスケ部のマネージャーが乙樹に告白してるのを見て居てもたってもいられなくなったの…!」



マジでなんだよコイツ等…

両想いの癖に泣いて悩んでるふたりを見て胸のなかを黒い靄が漂う。

乙樹が芽生に相談したのも知ってる。芽生が優しく乙樹の背中を叩いたのも知ってる。なら、日莉の背中を押すのは俺ってことかよ。



「もうどうしたらいいか分かんないの、蓮…!」



寒さで真っ赤になった頬に滴る涙。霜焼けの手で涙を拭う日莉の目は、泣きじゃくりすぎて赤くなっていた。いつもならここで涙を拭ってやるが、それはもう俺の役目じゃねえ。



「…どうせなら振られてから泣け」



うだうだ言う日莉の腕を掴んで無理やり立たせる。



「…告る前からうじうじ泣いてんじゃねえよ。さっさと告白して振られてこい」

「は、はぁ!?ふ、振られるとか決めつけないでよお!」

「…ああ"?なら泣いてじゃねえよ。早く行け。その涙止めて貰ってこい」



鼻を啜る日莉の足を蹴れば、案の定、転けやがった。「いった!何するの!?怪我するじゃん!」ときゃんきゃん騒ぐ日莉を鼻で笑う。癪だから背中なんて押してやらねえよ。さっさと行け。

睨めば黙って公園を出ていこうとする日莉が振り返った。



「…蓮!」

「…んだよ」

「…っあ、りがとっ!
私頑張ってくる…っ!」



涙を流す目を細めて満面の笑顔。

走り去って行く日莉を見てまた、溜め息。

世話のかかる奴等だ。面倒くせえ。マジでふざけんな。俺はお人好しじゃねえんだよ。何で恋のキューピッドみてえなことしなきゃなんねえんだ。もうすぐくっ付くと分かってながら黙って背中を見届けられるほど大人じゃない。後ろから抱き締めて行くなとこの腕の中に閉じ込めておきたかった。
そして誰もいない公園でひとり感じる。
もうすぐ終わることを。



「…あー…」



さみぃ。




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