二人の『彼』

「それにしても、どこ行ってたんすか?」



場所を移し、近くにあった桂さんお気に入りの甘味処で、長椅子に二人で座る。



俺が訊くと、団子を頬張りながら、うーんと唸る桂さん。



「ちょっとな」



明らかにはぐらかされた。



追求はしないけど。



「お嬢さんは元気か?」



「元気すよ」



ちょっとした事件があって以来、厳戒体制ってことで新撰組の監視の目がついているが。



だからこんな風に手紙を渡してくれた訳で……。



「あーあ」



桂さんは空を仰ぐ。



「この平穏が……続けば良いのにな」



「ずいぶんピリピリしてますけど」



「誰も死なないのは平和な証拠だろ?」



桂さんは平和を望んでいる。



俺ら新撰組も、そうだ。



そのためにあるのだから。



でも、想いは食い違う。



それは桂さん一人の力ではどうにもならないし、俺一人の力でもどうにもならない。



歴史は進んでいく。



たくさんの人の想いを乗せて。



たくさんの人の想いによって、ねじ曲げられながら。



「高杉の奴は……人を……仲間すら、駒としか思ってねぇみたいだけどな」



桂さんは高杉さんを思い出したのか、渋い顔をする。



「そんなことないだろ。仲間は仲間だし、敵も人だ」



桂さんの考え方は優しい。



誰にでも、何に対しても優しい──お人好し。



そして、甘い。



この非情な世界は、そんな甘い考えは受け入れない。



「護るって言って、敵を斬れなくて。向き合えなくて、結局逃げる」



そんな護り方しか、俺はできないんだよな。



自虐的に、桂さんは笑った。



「いっそ俺もあいつみたいな考えを持てたら、ドンパチやれるんだけど」



「それはちょっと……」



温厚な桂さんが暴れ出すなんて、想像するだに恐ろしい。



「冗談だ」



今度はいつものような人の良い笑みを見せる。



確かに、こうやって俺たちが笑って他愛のない話が出来ることこそが、平和な印のようだった。



「桂さんは……」



俺は、一口も団子に手をつけないまま、桂さんを見上げる。



「何を護っているんですか」



このお人好しは。



何を護って平穏を退けているのだろうか。



信念とか、仲間を想う気持ちとか。



そんな、立派な考えのもとの綺麗な答えを期待していたのだが、桂さんはまたしても自虐的に言った。



「自分……じゃねぇかな」
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