バースデー・イブ
25歳のクリスマス

イケメンハンター


 肌寒くなってきた10月の半ば、街が一気に色づきはじめる。行きつけのパスタ屋でボルチーニ茸のクリームパスタを食べて幸せの余韻を噛み締めながら職場に戻る。
 空き時間で見たシャネルの来期のコレクションを見て、30歳になる時に絶対にシャネルのスーツを買おうと気を引き閉められつつも、今季のヴィトンの新作を買ってしまったし高保湿の美容液とクリームも買ってしまった。

 「ちーちゃんちっす」
 ドアを開けるとユーが応接用のソファーに座りパソコンを広げている。
 「げ、なんでいるの?」
 突然の来客に驚きながら
 「監査回りだよ。請求書と一緒に手紙来たでしょ?俺様がチェックしにくるって」
 「来るなら事前に連絡してよ。準備とかあるのに」
 「ま、抜き打ちもあるけどね。厳しくするったでしょ?ちーちゃんだらだらしてるから。どうせネットサーフィンしながらブランドの来期のコレクション動画見て買うものチェックして、それに飽きたら今月号の情報誌で今日のランチするお店探して、鼻唄歌いながら秋の味覚をふんだんに使ったランチ食べに行ったんでしょ?」
 ほぼ図星だわと思い、探偵になりなよと思わず言ってしまう。
 「やー、ちーちゃんの行動パターンがお決まりなんだよ。ブランド品か食べ物か酒か旅行の事しか考えないみたいな」
 「他にも考えていますよ」
 「あー……ファッションに美容ね。あとはおしゃれ系習い事?ポーセラーツとかフラワーアレンジメントのディプロマ取ってサロネーゼが夢そう」
どこまで当てているんだと思い目を見開くと、当たりーと。
 「野球だよ。バッセン行ってからはまって、クライマックスで一気にはまった!そして、つば九郎がかわいい!」
「おー、やっぱいいよな。弱小と言われてるけど俺は燕党だ!仲間だな!」

 「久保さぁん。お茶です」
 ナナちゃんがつけたてのベビードールの匂いを漂わせながらお茶を持ってくる。
 「知華さんダメじゃないですかぁ。久保さんにお茶出さないなんてぇ」
 今来たから出せないわと言おうとしたが、優しい言葉をかけながら受けとる。どうやらユーは女子社員からの人気が高いらしい。イケメンでスタイルがよくおまけに旧帝卒の監査勤め。ちなみに車はレクサスのRXって噂だ。ハリアーだから形は同じだけど、エンブレムが違うだけで印象や値段が違ってしまう。それに大学は地元私学なのに、なぜ旧帝卒とらいう噂があるのかは謎だ。


 「わー、ナナちゃんグラム円の高級茶出してきたわ。ユーってVIP待遇なの?」

 「」

 「俺の母親の実家がお茶やっているから親戚からたんまり貰うからいいよ。むしろ匂いで分かるちーちゃん利き茶できそう」
 「あたしの両親の実家がお茶やってるし親戚や親の友達もしているからくれるの。その中の一軒が高級思考のお茶してるもんで、新茶の時期は安くして貰うんだ。そのお茶はさすがにくれなくて」
 「なんかさ、多いよな。茶農家や茶商に茶屋……クライアントにも茶屋いるし」

 「ね、ユーさ知ってる?ユーの噂」
 「なにー?なんかいいこと?」
 「ユーは駅前のタワマンに一人で住んでいて、車はレクサスのRX乗ってるって。あと旧帝大卒らしいですね」
 「なんだそれ?みんなが思うほどこの仕事は薄給だし、留学費を貯めてるからこの歳で実家暮らしだよ……車はハリアーじゃん?大学は地元私立だし」
「でも、高校は県内トップでしょ?」
「ああ。高校のやつはそれこそ旧帝言ってるからな。県外出たくなくてこの仕事の資格取れる大学探したの。県内だと高校ブランドすげーよ」
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