ビターバレンタイン




「なあ」
「はいこれ」



 私は祐輔の言葉を遮るように、祐輔用に準備していたチョコを渡す。



「私からは、最後ね」
「どういう?」
「別にいいでしょ。祐輔はこうやって他から貰えるんだから」
 


 祐輔は黙っていた。
 狡い。

 私は祐輔が好きだ。だがもう、恋は盲目とはいってられないくらい、はっきりと目が覚めている。祐輔は相変わらず私の好みでそこにいるけど、祐輔は迷っている。天秤はいつも動いている。
 
 私に悪いからと、必死に隠しているつもりだけど。

 その子が憎いかといわれたら、そりゃ憎い。でも、そんなこといったって、私は私にしかなれない。その子にはなれない。


 
「私は、天秤にかけられたくない」
「俺は別に」
「そうやって、杏里にも言われてるくせに?」
「お前…」



 ねぇ、松谷さん、だよね?
 そうやって名前の知らない子に声をかけられたのは少し前。生徒みんなの名前なんて覚えているはずがなく、私は杏里という名前しか知らない。



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