ビターバレンタイン





 彼女は、祐輔のことを話した。

 はっきりいわないそれに、私は杏里が自分のことを嫌っていることを察した。自分がどれだけ祐輔と一緒にいるかとか、彼女みたいなことをしているとか……。そんな話を、杏里は楽しげに話した。まるで、友人に話すように。
 私は杏里とは友人でもなんでもない。だから何、とずっと聞いていて苛々した。そして、あ、と気づく。

 だから、早く別れてよ、と遠回しに伝えてきているんだと。

 嫌な子。
 ならはっきり言えばいいのに。

 余裕めいた笑みに、じゃあねと去っていく後ろ姿と揺れるスカートが目に焼き付いている。 
 
 

 あれから杏里とは話していないが、祐輔とは会っているんだろうことを私は知っていた。知らないとでも?杏里はわざと、私が気づくように仕向けているんじゃないかと思った。

 前々から、たぶん私のことをある程度調べたんだろう。

 祐輔とは通らないけど、私は通ることのある道に、杏里と祐輔がいたから。





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