蜂蜜漬け紳士の食べ方


「…は、モデル?え?」

「なかなかモデルにまで普通はインタビューしないんだけどな~、そこが敏腕編集長の俺の視点よ。
あえてモデル…描かれる側の視点から伊達大先生を語らせようっての。どうよ?」


そしてもう一つ、桜井アキの欠点。


「あ、ああ~…大変、よろしい、んじゃないでしょうか…」


長いものには巻かれろ理論。
上の言う事にはとりあえず従っておけ理論。

それがすっかり染みついた返答をする癖だ。


「だろ?
そのインタビュー記事と、あとは…個展の打ち上げの記事を入れて、『伊達圭介特集』の完成ってことで」

「そ…そうですね。ええ、大変良いかと…」

「ってなわけで。モデルの子にインタビューよろしく。
桜井は個展打ち上げの記事も書くだろうから、負担軽減で中野と合同でな」


災難は、次から次へとやってくる。
一つ問題が解決しないうちに、まるでミルフィーユのように受難が折り重なってくる…。

「…では準備をしますので…失礼致します」

「おう、よろしく頼むぞ」


うなだれて席に戻ってきたアキに、綾子が声をかける。


「先輩、本当に大丈夫ですか。風邪でも引いたんじゃ?」

「ありがとう、うん、大丈夫、心の風邪だから」

「…は?」

綾子からの本格的な追及が始まる前。
編集長との会話が終わったのを見ていたらしい中野が、アキのデスクにやってきた。


「桜井、今度はヌードモデルのインタビューだってよ。聞いた?」

「ああ、うん…」

「それで俺、もう早々にモデルの子にアポつけたんだわ」

「ああ、うん…」

「ほい、とりあえずモデルに関しての資料ね。ネットから調べた奴だけど」

A4用紙数枚がばさりとアキのデスクに散らかった。
どこかの履歴書のようなそれには、黒髪の美しい女性の写真が掲載されている


「あと、個展の記事は桜井にほとんど書いてもらったから、今回は俺主力で」

『美術モデルは、雑誌モデルとは違って画家の感性が採用条件』とはよく言ったものの
どこかのホームページから引っ張ってきたモデルの笑顔は、白い歯がまぶしく、誰がどう偏見で見ても可愛らしい笑顔だった。


それを見た瞬間、アキは胃袋の奥からこみ上げる何かを感じたのだが
きっと昨夜にやけ食いしたポテトチップスのせいだろうということに落ち着いたのだった。




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