蜂蜜漬け紳士の食べ方
数日後、ヌードモデルインタビューの為、アキは中野と共にあるビジネスホテルの一室にいた。


オオシマ・ムツミ(本名:大島睦美) 29歳

某女性雑誌の読者モデルから芸能界入りを果たす
その飾らない人柄から、若年層のみならず一定のファン層がある

最近は雑誌モデルだけではなく、自身の美術大学卒という経歴から美術モデルも精力的に行っており……



「…ってな感じでどうかな?質問。…おい、桜井」

「はいっ、なんでしょう!」

「だからー、オオシマさんへの質問。俺の話、聞いてたか?」

少し眉をしかめた中野に、アキは慌てて手元のメモを見つめる。
主力になるという彼の宣言どおり、全部の質問は中野が考えてくれたのだった。


「……ええ、これで良いと思います」

無難かつ乱暴な返答にしかし中野は怒ることもなく、逆に溜め息混じりで桜井の細い肩を叩いた。


「まあ、確かにいろいろ疲れでも溜まってる頃だよな。伊達大先生の記事を全部仕上げたら駅前で飲もうぜ」

「中野くんのおごりで?」

「そういう返答だけは早いのな、お前」


オオシマムツミへのインタビューは、それこそ特急で準備が進んだ。
中野の手回しの早さなのか、それともオオシマ本人からの快い返事のお陰なのかは分からない。


インタビュー場所として用意されたのは、都内某所のホテル一室。
さすがに、以前インタビューした日本画家・小河原より格は劣るが、それでも小綺麗なインテリアや接客の良さで有名なホテルだった。


「いやあ、しかし某先生みたいに注文が無くて良かったよ」

中野が冗談混じりに言う。

「やれ『飲みモノはどこどこの国産の炭酸水じゃないと嫌だ』とかな…炭酸水なんて、どこ飲んでも変わらないっつの」


アキは用意してきたカメラのストロボを弄るフリをして、中野の冗談に曖昧な返事を返す。


「…いい人かな」

どろどろとした本音は、アキ自身が勘付く前に唇から零れおちた。


「あん?何が」

「オオシマさん。良い人だといいね、って話」

8回目ものストロボ機能チェックを繰り返し、アキは自嘲に似た笑みを見せる。



…本当、思いっきり嫌な人ならいいのに。




彼女の本音を打ち消すように、待ち合わせ五分前、一室のドアはノックされた。

細々しい、けれどしっかりした音だった。


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