蜂蜜漬け紳士の食べ方
「う、っわあ……」
アキは、パーティー会場へ一歩入るなり、思い切り首を真上へ上げた。
それほど狭いとは感じなかった受付場所よりも、パーティーの会場はさらにさらに天井が高く、一瞬『吹き抜け』かと錯覚しそうなほどだ。
そこに大きく垂れ下がったシャンデリアも、素人のアキにすら高級なことが分かるくらいに、宝石のように室内の明かりをキラキラと乱反射させている。
あれだけ多く見えた参加者も、この広い会場に入ってしまえばむしろ少ないと感じさせるほど。
「さっすが伊達先生。金かけてんな~、はは」
パーティーに慣れているのか、はたまたその逆なのか。
中野は茶化すような口調を変えないまま笑った。
広々とした会場には、十数個の円卓。
そこに用意されたオードブルの数々も目を奪うには十分なほどの彩り。
そして中央に構えられたステージの背面には、大きな筆文字で『伊達圭介個展開催記念パーティー』と飾られていた。
恐らくあそこで伊達や関係者が何かを話すのだろう。
とにかくもこの煌びやかな会場ならば、記事を書くに困る事はないだろう。
適当に『豪華な』とか『華やかな』とか、そんな単語を羅列させればいい。
二人の後続に続いた編集者達は、出入り口に突っ立ったままのアキ達を追い越し、思い思いの場所へ散り始めていった。
今まで取材などで縁のあった人を探し、このパーティーの話を聞くためなのだろうか。
そしてその様子をぼんやり見ていたアキだったが、ここでようやく一つの不安要素に気づく。
「ねえ、中野くん」
「んー?」
「……私、記者っていう立場どころか、プライベートでもこういうパーティーに出席した事ないんだけど」
「結婚披露宴もないのかよ」
「いや、それはあるけど…でも披露宴だとさ、こう、立ち位置ってのがあるじゃない。新婦の友人とかさ、そういう…」
「ああ、まあ、うん」
「記者としての立場で参加って、ものすごくニュートラルな立ち位置だよね。
ど、どうすればいいのかな」
早くもスーツの襟元が崩れ始めている中野が、ワックスで無理に上げた前髪を気にしながら言う。
「んー…普通に楽しめばいいんじゃないか?」
「へっ」
「だってさ、ほら、書く記事だってパーティーの感想だろ?楽しんだ方が良い内容書けそうじゃん」
何とも力強く、かつ適当な返事だろうか。
どうも隣の同期はメンタルが強いらしい。
その証拠に、彼の興味は既に、近くのテーブルへ可愛らしく並んでいるオードブルへと移っていた。
「う、うーん…まあそれはそうなんだけど」アキは苦笑する。
「とりあえず何か飲もうぜ。これだけ豪華なパーティーなんだ、ウェルカムドリンクくらいあるだろ…あ、すいません」
中野がヒラリと手を上げると、女性のスタッフがにこやかに笑って足を止めた。
「はい」
「何かドリンク頂けますかね」
「メニューはこちらになりますが、いかが致しましょう」
女性スタッフは慣れた手つきで小さなメニュー表を差し出す。
この時間、ウェルカムドリンクを配膳するためだけのスタッフなのだろうか。
ふと見回してみると、似たようなスタッフから皆次々とウェルカムドリンクを受け取っている。
「んーと…じゃあ俺はシャンパン。桜井は?」
「…ウーロン茶で」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
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