セカンド・チョコレート

 手作りチョコに生チョコを勧めてくれたのもあかりんだ。簡単だけど失敗する事がまずなく、味にも外れがないらしい。
 確かに生チョコの作り方は料理の苦手なあたしでも失敗しないくらい簡単だった。 その分素材の味がダイレクトに出ると言うから材料は奮発して、肝心の製菓用クーベルチュールチョコレートにヴァローナ社製を選んだ。百グラムあたり五百円近くする高級品だ。チョコ以外も北海道産の純生クリームとバンホーテンのピュアココア。チョコをつまみ食いしてみたらちょっとビターだけどスーパーやコンビニで買うチョコとは全然違う味がした。そのまま食べても十分美味しい。
 そう言えば昨日の帰り際、隣の席の岩本君に義理でもいいからチョコが欲しいとしつこくアピールされたけど、作ったのはお父さんの分を含めて二つだけ。悪いけど子供っぽい男はタイプじゃない。


 バレンタインというやつはどうして女から男にチョコレートを渡す行事になってしまったんだろう。男より女の方がチョコ好き多いし、バレンタインはクッキーやらキャンディやら上げることにしてホワイトデーにチョコもらえる行事に変わればいいのに。まあチョコレート戦争になるのは日本だけらしいけどね。


 そんな事を考えていると、こちらに歩いてくる人の気配を感じてあたしはチョコを背中に隠すように後ろ手に持ち換える。
 来た。


 少し緩めたブルーのYシャツの襟元。チャコールグレーのピンストライプのスーツは細身でスタイルがよく見える。そして前髪をかき上げる仕草。
 もう完全にあたしの中に理想形として刷り込まれている。


「おはよう、美紅」


 ああ、今日もこの人は格好良い。

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