13inch 路上のルール
たとえば みんな中3ぐらいになると 先輩から音楽やお酒やタバコなんかを教わって覚えていくじゃない.人の趣味や行動パターンがだいたい決まっていくのは こういう時期なんだと思う.

「エミって絵とかうまかったよね たしか」
そう言って話しかけてきたのは 小学校からの同級生【マコト】.自分たちのバンドのジャケットを描いてほしいと言う.
「山嵐のジャケみたいなやつがいいな 仏教画みたいな」
任せて♫と言ってみる.この頃は周りに言うとキモがられるんじゃないかと警戒してたんだけど 宗教絵画や空想動物にはすごく興味があって 密かにいろんな本や画集を読みあさっていた.あまりにもガチな専門書ばっかりだったからさ カルトオタクって思われたくなかったんだよな・・・いま思えば「タトゥーアートが好きなんだ」と言ってみればよかったものをね.

そんな作業をマコトたちと一緒にしてるものだから クラスの女の子からの反感はひどいものだった.バンドマンとスケーターがモテる風潮だったからね.
不特定の女の子に無視されるようになったんだ.気にしないフリは簡単だったけど 修学旅行終わった後でよかったーって実は思った.
その無視が1週間も続くと さすがに我慢も限界だしわたし学級委員だしクラス会やりにくいしで ある日の放課後 その女の子たちの中から たまたま近くにいた2人を廊下に呼び出した.
「あのさ マコトと話したいんならウチらの会話に入ってくればいいじゃん普通に」
「は?なんの事だし 意味わかんねーし」
この子達は嘘が下手だ.女の子は図星を突かれたり返答に困ると だいたいこう言うよね.
「コレ聴くといいよ マコトやウチが好きなバンド カッコいいよ」
そう言ってわたしは山嵐のビデオ(金ジャケのやつ)を貸した.
2週間近くかけて 女の子達のジメジメした無視は次第になくなっていった.女の子達は音楽についてわからないなりに質問してくるようになったから そこから会話が復活していった.よかったよかった.
ビデオはというと 返ってはこなかった.又貸しされまくって行方知れずだ.BOXのおにいさんがせっかく取り寄せてくれた新作だったのに.まだ観てなかったのに.よくない.

マチちゃんもそのマコトが好きだったんだけど マチちゃんは無視とかそんなことしなかった.
「エミの趣味って男臭いウケる笑」
とか言って わたしの事を理解してないような理解があったし 同級生のみんな以上に大人の男の人との付き合いが多い子だったんだ.だから たかだか中学生同士の恋愛どうこうにはまるで興味がない様子.そのサバサバ感がまた救いだった.マチちゃんは自由奔放に外で男友達と遊び 学校の友達の恋愛トラブルは放任してくれる わたしにとってはちょうどいい距離感を保ってる子だったんだ.

さて そんなカンジなので マチちゃんも知らないわたしの最近の行動パターンができてきた.こないだ知り合ったアズマさんとシンジさん.マチちゃんや仲のいい同級生にも2人の事は話さなかった.
どうしても周りには男友達しかいない.これ以上男好きだと思われるのはイヤだった.それに学校では自分のマジメキャラが マチちゃんといっしょにいることで逆に引き立っていたんだけど ここはキープしておきたかった.
今さら「さいきんエミ遊んでるよね」とか言われたくない変なプライドが働く.「周りに影響された中3デビュー」ではないっていう自負がどうしても譲れなかったんだ.
なによりマコトの取り巻きっ子達との件があったから もう面倒な事はイヤだイヤだってなって.

アズマさん達と一緒にいる事は多くなっていった.マチちゃんはレディースの子達といる事が多くなってきてたんで ライブの頻度がガクッッと落ちた.だから言いかたは悪いけど それもなにげちょうどよかった.
アズマさんは惜しげもない女好き それ以上に車好き.愛車はこのChevrolet Impala '61 地元の隣町ではアメ車のクルーに所属している.
シンジさんはHip-hopのDJさん.横浜で回してた時にアズマさんと知り合ったんだって.すごい天然を発揮していつも笑わせてくれる.
2人ともキャラがすっっごく際立っていて 変わり者だと思われたくないと学校ではコソコソしていたわたしの曲がったプライドなんて かなりセコいと気付かせてくれた.

BMXやインラインスケート仲間もいなかった そんな時に知り合えたアズマさんとシンジさんは スケボーがうまくて はじめての練習仲間だった.
大きな港川を渡ったむこう側の【中央公園】で 金曜の夜はほぼ一緒に遊んだ.アズマさんが地元である隣町から 車にランプを積んでくる.組み立てると60inch弱になるランプ.わたしも使わせてもらい 修行と称して練習に明け暮れた.
やがてシンジさんの妹さんや 彼女さんとも仲よくなって いわゆる「いつもの」って呼べる集まりができた.
歳も 住んでる場所も違う人同士の・・・違うのに「同士」は変かもしれないけど・・・居心地がよかった.
港川のむこうはわたしの校区じゃない.駅やモールもあるし 都会的なんだ.自分の住んでいたのは港川の東側で 海に囲まれた自慢の漁師町.一方シンジさん達が住んでたのは西側.
東側と西側の中学生同士のケンカのウワサは聞かなかった.たぶん中学生に港川のむこうは遠すぎたんだ.塾もたまり場のゲーセンも違うから.だからシンジさんや妹の【リクちゃん】と共通の知り合いはいない.加えてアズマさんはもっと遠い隣町から来ている.ヤクザ屋さんが多い繁華街のある町だ.
「誰と誰が付き合ってる」とか「最近ビーフ中らしいよ」みたいな面倒な話はここにはなかった.楽しかった.

夏休みがはじまり・・・わたしは受験生なんだから外で遊んでる場合じゃなかったんだけど・・・いつもみたいに中央公園で遊んでいた.
この日はそれぞれの家から持ち寄った食材で 港川の縁でBBQ.
するとスロープの上 中央公園の広場からクラッシュ音が聞こえた.アズマさんのランプを誰かが使ってる.シンジさんが見に行ってくると言った.
ランプはみんなで使うものってアズマさんはいつも言うんだけど 一緒に置きっぱにしてあっるBMXも心配になってわたしも行くことにした.

ランプでフリップしてたのは2人の知らない男の人達だった.歳は自分と同じぐらい.それとランプのわきには大人っぽい人が1人.その大人が話しかけてきた.
「シンジだろ?アズマ達からよく聞いてるよ. アズマどこ?」
へ?って思ってシンジさんを見上げると ちょっと怖い顔してる.
「・・・アズマさん呼んでくるね」
自分が小声で言うと シンジさんはわたしの腕を軽くひっぱって「ダメ」のサインをした.2人の男の人はフリップをやめようとしない.
「ラード切れたわー もらってくる」
とか言ってアズマさんがスロープを上がってきてしまった.アズマさんは3人に気づくと 持ってたタバコの火を消した.ゆっくり近寄るとさっきの大人に軽く頭を下げて挨拶した.
「お疲れっす」
大人は言う.
「オマエもケータイ持てよ」
しばらく話すから・・・みたいな目配せを アズマさんはわたしの方にしてきた.ナルホドと思ってシンジさんを連れて川縁へ戻ろうとすると やっぱりシンジさんは足が拒んだ.
えーなになにっ これはケンカごし?って感じたから 申し訳ないけど無理に引っぱって連れて帰った.川縁に戻ると シンジさんは妹さんや彼女さんもいたから さっきの3人については話そうとしなかった.気にはなったけど 逆にケンカなんかにはならなそうだから それはそれで安心.

あっそうだ!と わたしは近くのスーパーまでアズマさんの代わりにラードもらいに行ってこようとした.・・・アズマさんたちの険悪テリトリーを横切ることになるけども.ここは気にしてないフリが一番だろーな.
「ラードもらいに行ってくるねー」
ランプわきに横倒しにしてあったBMXをサッと起こした.そうすると 同い年ぐらいの2人のうち 金髪の方が話しかけてきた.
「それおねえさんのチャリ?」
「うん・・・」
「女がBMXってはじめて見た」
愛想30%くらいで「へー」とか返してスーパーへ向かった.遠ざかっていく背後では アズマさんと知らない大人が 難しそうな顔してまだ立ち話してた.
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