如何にして、コレに至るか

私を、この場に閉じ込めた“誰か”。

こんな”あからさま“なんだ。この結論に至らない方がおかしい。

外からの侵入防止でなく、中からの逃亡防止に効果てきめんな窓の異常性。第一に、知らない場所にいる時点で“誰かに連れてこられた”んだ。

記憶を振り返る。
今がいつか分からない。時計もなく、持っていたバックもない。

バックを持っていた。を皮切りに、徐々に記憶が蘇る。

「大学が休みで、それで、宮本さんとデートして、別れて、それで」

その先が思い出せない。
付き合って二年目。大学入学仕立ての際、友人に誘われた合コンにて出会った男性。


話がやけに合い、共通の趣味もあり、一緒にいて楽しい人だったからこそ、恋愛感情も抱き、晴れて恋人同士になれたその男性。

宮本逢瀬(みやもとおうせ)。私より四つ年上の社会人。仕事が忙しい中、わざわざ時間を作って、私に会ってくれる優しい人だ。

その彼と別れた後ーー家まで送ってもらい、彼の車から降りた後、何があった。

まさか、彼がこんな場所に連れてきたのかと思えど、彼はアパート住まいだ。何度も行ったから、こんな部屋でないことも分かる。

「ダメだ」

いくら記憶を探っても、思い出せない。
宮本さん、宮本さん。と心で彼を呼ぶ。声を上げて、助けを求めたいのを堪えた形だ。

頼りがいある彼なら、もっと上手く立ち回ってくれるは元より、一人でいるのが嫌だった。

両親は早い内に他界している。育ての親はいるけど、あくまでも他人のため距離が出来ている。高校卒業と同時に一人暮らし。ワンルームのアパートから、大学通い。以降、音沙汰はない。

彼もまた似たような経緯を辿っている。母親は早い内に、父親は数年前に。似た者同士、互いに、寄り添える人がいないからこそ、家族以上の恋人として距離を縮めていたんだ。

現に、こんな危機的状況下において、思い出すは彼のこと。同時にーー

「宮本さんは、大丈夫なのかな」

記憶がなくなる直前までいた彼の心配をしてしまうほど、私は彼を想っていた。

彼が襲われた事実はないと思うけど、心配だ。無事かどうか確かめるにも、離れた人と繋がるアイテムがない。

時計がないから、今が何時なのか分からない。会えない日でも、一日一回は連絡する仲だ。電話やメールに応じないともなれば、彼は心配して、私を探してくれるはず。

だとしても、こんな訳の分からない場所にいたら探しようがない。

何とか、外に出られないものか。
考えている内に、ふと、棚が目に入った。

シックな色合いの、棚が三つ。
下段が引き出しで、上段は観音開きのガラス戸。ガラス戸の中には、分厚い本がいくつも入っていた。

中が不明な引き出しを開ける。
すんなり空いた中身は空っぽだった。

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