噎せかえる程に甘いその香りは
「まぁ彼女に気が無い場合、葵が本気で押してくるの重いしウザイかもだけど。」
「…………。」
「でもその副社長さんと上手くいく事はほぼアリエナイんだろ?だったらさ…身も蓋もない言い方しちゃうと一番近くに居る葵がやっぱり一番可能性あると思うんだよな。つーか、手慰みだろうがなんだろうが身体の関係がある時点でそれなりに特別だと思うけど。」
「……単に手頃だったからじゃないか?それなりに口固い方だし…。まさか俺が今更心変わりするなんて思ってなかっただろうし、本気になるつもりの無い仄にしたらうってつけの人材だったって言うか…。」
「葵って奥手っつーよりネガティブ思考だよなっ!」
麻人はちょっと呆れたように笑い飛ばして、次いでに俺の頭も叩き飛ばした。
痛い。
麻人は残ったコーヒーを呑みほして立ち上がった。
「まぁ、さ。葵が諦めるっつーなら、俺はそれもアリだと思うけど。」
「え。それは無理。」
玄関に向かう麻人の後に続きながらの俺の即答に、麻人は振り返って「ぶっ」と噴き出した。
「だったらもうやる事は決まってんじゃん。」
頑張れよ~と人事のような呑気な激励を残して麻人は去って行った。
仄が傍に居る。
それが当たり前のように。
まるで恋人のように。
穏やかな時を共有して、時折手繰り寄せて身体を求め合って。
―――そんな関係を壊したくない。
だけど、その関係が、仄が副社長を想いながらという条件付きで成り立つのならば今すぐにでも壊してしまいたい。