噎せかえる程に甘いその香りは
目の前が真っ暗になって周囲の音さえ遠のいた。
……戯れ。
確かに認知どころかその存在さえ知られていない私が突然彼に会いに来たって喜んで貰えるなんて思ってなかった。
だけどせめて母とは――結婚は適わなかったけど彼女ヘの愛は本物だったよ、と。
夢見がちにもそんな言葉を心のどこかで期待してやまなかった。
それなのに
ただ一時の戯れ。
それで出来た子供なんて
――――私は彼に全く望まれてなかったんだ。
私の存在全て、産まれて来た事から、これまでの生活。
全部を否定された気分だった。
「あの時俺は社長の言葉に少なからずホッとしたよ。あの時社長が本当に愛していたのは仄の母親だと言ったら……俺の母親や俺の立場はどうなる。幸せだと思っていたそれまでの生活全て全部虚構だったのか、と。」
だけど…と私に向けられた蓮実さんの目はとても辛そうで。
「あの時、仄を見て自分は何をやってるんだと、本気で思ったさ。イイ歳して、ずっと独りで頑張ってきた女の子を絶望に叩き落としてまでして、俺は親父に何を求めてたんだろうってな。」
やっぱり…蓮実さんはずっとあの時の事を気にしてくれてたのね。
私は小さく微苦笑する。
「仕方ないです。私が逆の立場だって同じ事を思った事です。」
もしその時の事を悔やんでいるのなら、もう自分を許して欲しい。
だって蓮実さんは何も悪くないのだから。