噎せかえる程に甘いその香りは
それってさ、俺の都合のイイように取っちゃうけど、いいの?
しかしそんな告白めいた言葉とは裏腹に彼女の表情は冴えなくて、寧ろ悲しみに満ちていて
―――それが何故かって…
「騙していてスミマセンでした。今まで…有難うございました。」
彼女がこの関係に終止符を打つつもりでいるからだ。
彼女の秘密が暴かれて、お互い様だった関係の均衡が崩れてしまったから。
―――でもね仄。
そんなもの、とっくに崩れかかってたんだよ。
俺が君を特別に想い始めた時点で。
言い逃げ気味に身を翻そうとする彼女を掴んだままの手で引き寄せた。
ビックリ顔の君の唇を掠めるように奪う。
「俺が好きなのは仄だよ。」
俺の囁いた言葉はまるで異世界語か何かだったみたいに彼女が大きく目を見開く。
それに俺はぷっと吹き出し、家に向かって歩き出した。
勿論、彼女の手を引いて。