噎せかえる程に甘いその香りは

不図、思い出した嫌な記憶に顔を顰めて邂逅していると、不意に彼女を繋いでいる左腕がぐっと引っ張られた。

足を止めて振り返れば彼女が散歩を嫌がるワンコみたいに足を踏ん張って前進を拒否していた。

俯き加減の彼女の顔は今にも泣きそうで、それを堪えるようにぎゅっと噛まれた唇が痛々しい。


「……どうした?こんな所でいつまでも立ってても仕方ないからとりあえず俺の家行こう?」


これ以上無い程優しく言ってみても、彼女は泣きそうな顔のままフルフルと首を横に振る。


ああ……こりゃ…

この間あんな酷い事しちゃったし、怯えられてんのかな。

許してもらえるなら土下座してでも謝り倒すけど…なんて益体もない事を考えつつ途方に暮れる俺の耳にポツリと聞こえた小さな声。


「もう…分かってるくせに。」


詰るような言葉とは裏腹に震えた声はとてもか細くて。

顔を戻せば俯いた彼女は苦い物を呑み下すみたいに言葉を続けた。


「私、ずっと葵さんに嘘を吐いてました。最初から全部、嘘だったんです。慰め合う関係なんて、嘘。蓮実さんは浮気相手でも何でもなくて…葵さんが私を慰める理由なんて最初から無くて……」

「え?あ。…あー……」


彼女の言葉を少し考えてみて確かにと納得する。


「え?じゃあ仄はなんだってそんな嘘を吐いたんだ?」

「そんな事…っ、」


思わずと言うように顔を上げた彼女と目が合えば、彼女はぐしゃりと顔を歪めた。




「貴方に少しでも近づきたかったからに決まってる―――」

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