噎せかえる程に甘いその香りは

返事に窮してる間に「とりあえず今日は寝室な。」と言って寝室へ誘われた。

座ってと言われてベッドに腰を下ろすと、その横に葵さんも腰を落ち着ける。

ネクタイの結び目に指を掛けて緩めながら天井に向かってホッと息を継ぐ葵さんはやっぱり疲れた顔をして見える。

それもその筈。

ここ数週間仕事が忙しくて、挙句駄目だしみたいに私の揉め事に巻き込んでしまったんだもの。

申し訳なくて俯くと、顔に掛かった横髪が優しい感触にそっと耳に掛けられた。


「この間はゴメン。俺は気持ちも伝えて無いのに、心のどこかで仄を自分の恋人みたいに思ってたのかも。仄が副社長と会ってたのを知って、裏切られたみたいに思ったし、副社長に嫉妬した。」


もう二度とあんな事しないし、と反省を伝える彼に私は首を振った。

周囲も含めて彼にも、あえて誤解するように仕向けて来たのは私なのだから、彼に非は無い。

―――それはそうと


本当に?


伝えられてもまだ信じられない彼の気持ちに戸惑う方が大きい。

そんな私の困惑を読んだように続いた言葉。


「好きだよ仄が。」


私を見詰める甘やかな眼差しと共にその言葉が胸にジワリと染み込んでくる。


本当に……本当に?


嬉しい筈なのに臆病な私はまだ信じ切れずに。

ぽかんとしている私に葵さんが悪戯っぽく苦笑した。


「仄は副社長の事が好きだと思ってたから、伝えるのは割り切るまでもう少し待つか、と思って言わないでいたけど正直に言うと実は随分前から。」


……本当に?

嬉し過ぎると人間はどうしてイイのか分からなくなるのかもしれない。

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