TRIGGER!2
「あぁ、それとな、帰った先に女が1人うろついてる筈だ。そいつ保護して、後で俺んとこ連れて来てくれ!」
「あぁ」


 短く答えて、上を目指す。


「誰ですか、あの人」
「わたしの従兄弟。峯口の一人息子よ」


 だからあの大男は、美和に馴れ馴れしい態度を取ったのか。
 そんなジョージは宣言どおり敵を撹乱し、引き連れてここから遠ざかって行った。
 風間と美和はその隙に何とか五階に上がって、言われた通りの店に入る。
 前は店舗として使われていたのだろうが、今はテーブルも何もなく、がらんとしたフロアが広がっているだけだった。
 埃っぽい店内は、窓から微かなネオンの光が差し込むだけの暗闇で、目を凝らしてやっと歩ける状態だ。
 美和はもう、立っている事すらままならない。


「大丈夫ですか」


 目指すドアは、右手奥にある非常口。
 2人はゆっくりとそこを目指す。
 だが、その時。


「彼女と薬を、置いて行って貰おう」


 暗闇の中、声が聞こえた。
 風間は美和を後ろ手に庇い、声がした方に銃を向けた。
 声の主は、反対側の壁際に立っている。
 その両脇には、こっちに向けて銃口を向けている敵が2人。
 暗闇に阻まれて、その顔までは見えないが。


「その薬も彼女も、私にとってはかけがえのないものなんだよ」


 静かな声音。
 風間は銃を構えたまま、じりじりと後ずさる。
 自分が美和から手渡されたこの薬のどこに、ここまで執着するものがあるのだろう。


「何がかけがえのない、だ。彼女をこんな目に遭わせておいて」
「美和はやってはいけない事をしてしまったからな。多少のリスクは覚悟していた筈だよ。それは人々の悩みを無くす、素晴らしい薬なんだ。さぁ美和、それを寄越しなさい」


 男の言葉に、風間の銃を持つ手が震えた。
 こんな男に、美和を渡せる訳がない。
 ・・・だが。


「ごめんなさい・・・薬、返して貰うね」


 後ろに立っていた美和は、風間のスーツのポケットから薬を取り出した。
 そして、壁際の男に向き直る。


「この人が向こうに帰ったら、あなたに渡すわ」
「美和!!」


 男の方に数歩近付く美和の手を、風間は掴んだ。
 だが美和はその手をそっと振りほどく。


「やっと会えたのよ。あの人に」


 力なく笑う美和。
 この男が。
 この男が、美和が会いたがっていた人間なのか。
 風間は、壁際に立つ男を睨み付ける。
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