TRIGGER!2
 だが分からないのは。


「美和!!」


 目の前で何故か落ち込んでいるこのアホが、あの状況で大声を出すなどという失態を何故しでかしたのか。
 しかもこの男にしては珍しく、あの女を呼び捨てにして、取り乱した。
 どう考えてもホステスにしか見えないあの女と、風間は知り合いなのだ。
 それも、ただの知り合いではなく、本当に深い知り合い。
 彩香は恨めしそうにジュースの自販機を睨み付ける。


「どうせなら缶ビールでも売ってねぇかな」
「まだ飲むんですか」


 軽くツッコミを入れてくるあたり、少しは気分が上昇したのか。
 彩香は微かに笑って、ジーンズの後ろポケットからタバコを取り出す。
 クシャクシャになっていたが、この際我慢する。


「で、どうする? 帰る?」


 煙を吐き出しながら、彩香は聞いた。
 追っ手は完璧に撒いた。
 遠目だったから、こっちの顔がバレている可能性も低いだろう。
 ただ、今回の仕事であるドアの確認は、今は取り敢えず諦めた方がいい。


「・・・そうですね。一旦、帰りましょう」


 今日は風間の珍しい姿がたくさん見れる日だ。
 立ち上がった風間の自慢のヘアスタイルは、今や見る影もなく崩れている。
 取り乱したのは一瞬で、その後はひたすら落ち込んでいるようだが。
 あの赤いドレスの女が見えたのも、一瞬だった。
 狙撃を受けてあの場から逃げ出す頃には、女の姿は見えなかった。
 気にならないと言えば嘘になるのだが、今は取り敢えず、一刻も早く家に帰って冷たい缶ビールを喉に流し込みたい。
 そして、日差しが入り込まない遮光カーテンの部屋で、心行くまで眠りたい。
 いや、シャワーが先か。
 思わぬ運動をしたせいで、全身汗だくだ。
 そんな事を考えつつ、そして周りの警戒を怠らずに、彩香と風間は今日の仕事を諦めて、マンションに戻った。
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