TRIGGER!2
 そんなジョージの頬に手を当てて、彩香は笑う。


「あたしはもう、峯口彩香じゃねぇんだよ。あんたの顔まで忘れてしまわないうちに、最後に手掛けたこの件を片付けたい、それだけなんだ」
「・・・・・」


 ジョージはまた何かを言いかけ、言葉にならずに彩香の後頭部に、そっと手を回す。
 そしてそのまま、自分の胸にその頭を引き寄せた。


「・・・俺にとって、お前は間違いなく彩香だ。他の誰でもねぇ」


 絞り出すように言うジョージの胸に身体を預けて、彩香は一瞬、目を閉じる。
 心地よいジョージの胸から直接聞こえてくる、少し速い鼓動も、彩香の心を暖かく埋めていく。
 だがもう、これ以上は・・・重くなるだけだ。
 雛子が言っていたように。
 彩香の心の空洞を埋めるものは、それを忘れてしまった時には、それが何なのか分からないだけの重荷だ。
 だから彩香は、そっとジョージから離れる。


「あの黒ずくめの連中のクライアントからの依頼は、水島千絵の奪還と依頼主の身の安全の確保だ。だけど、黒ずくめが傭兵である以上、誰が何と言おうとも守らなきゃならないルールってのがあるんだよ」
「ルール?」
「あぁいう組織はな、必ず指示を出す役割の人間がいる。構成員は、何が何でもこの指示役は守らなきゃならねぇんだ」
「ちょっと待て彩香、そしたら、お前がーー」


 黒ずくめは彩香を殺せない。
 そして、今の彩香の言葉を組み合わせると。
 ある1つの答えに辿り着く。


「そうだよ。あたしはあの黒ずくめ達に指示を出す役割の人間なんだよ」
「・・・・・」


 再び、ジョージが絶句した。


「だから、さっきあたしが提案したのが、この件を解決する一番の近道だ。あたしは何が何でも、この件を解決したいんだよ。分かるだろ、ジョージ?」


 時間は刻々と流れていく。
 こんな場所でいつまでも立ち止まっている訳には行かないのだ。


「・・・分かった」


 苦渋の決断。
 それを滲ませるような表情で、ジョージは頷いた。
 彩香は笑顔を見せると、もう一度ジョージの頬に触れてから、ここを飛び出して行った。
 ジョージは険しい顔でそんな彩香の後ろ姿を見送り、反対の方向に移動を始める。
 それを肩越しに確認して、彩香は前を向いた。
 途端に飛んでくる銃弾の嵐。


「ま、ウチの組織も厳しいんだよなぁ」


 それを避けながら、彩香は一発、二発と銃を発砲して。
 いくら彩香の命は保障されていると言っても、それは『治療可能な範囲で』だ。
 致命傷を与えられなくても、動けなくなるくらいの攻撃はしてくる。
 それだけは、避けなくてはならない。
 彩香は歯を食いしばり、引き金を引く指に力を込めるーー。
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