僕が彼女にチョコを貰えなかった理由
後ろから抱きしめられているから、龍人の表情は見えない。


無言の龍人に不安になって来た。



「龍人?」


「じゃあ、春香が食べさせてよ。」



「へ?」


龍人が腕の力を緩めたので、龍人の方を振り返ると、龍人が真剣な顔でこっちを見ていた。



「春香が食べさせて?」



「な、何で??」



「だって、春香は俺が美味しいと思うか心配なんだよね?

 なら、春香が食べさせてくれたら、何でも美味しいから問題ない。」



「いや、それは・・・」



根本的な解決になっていない。



そう言おうとしたけど、何だか龍人の目が真剣で言えなかった。



龍人ってこんなこと言うような人だったっけ?


それに色っぽかったっけ?



私の知ってる龍人は、もっと無口で、不器用で、優しくて・・・



そんな考えが頭の中をグルグル回ったけど、龍人はそんな私をよそにワインレッドの包みをあけていく。



そして、箱をあけて、それを私の前に持ってきた。



「食べさせて・・・?」



その言葉にドキッとした。



自分の顔が真っ赤になって行くのが分かる。



私が動けないでいると、龍人が私の手を握りながら、言った。



「あーんして」


いつもの龍人からは想像できないような言葉に、私の心臓はあり得ない早さで脈打っている。


そして、私は箱の中身を持ってそれをゆっくりと龍人の口元に持って行った。

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