嘘つきな僕ら


『…それと西山さんにはやっぱり桜坂に行ってほしいんだ。
 西山さんに桜坂に行って欲しい、そう思ってる人、沢山いるし』



『…でも……』



『絶対に桜坂でお願いします』


俺はそれだけ言って、一礼してから彼女に背を向け、階段を一気に駈け下りた。




危なかった…



あれ以上、あの場所に行たら、俺は絶対に彼女に俺も桜坂を目指すことを言ってしまいそう…



彼女にもちろん桜坂に決めたこと、言いたい…



でも期待を持たせて、春を迎えて、やっぱり桜坂に行けませんでした…なんて恥ずかしすぎるし、もう裏切るようなことはしたくない。


だから合格できるまで、それまでは絶対に言わない。




『良之、由莉は?』

リビングの入口の前に立ちすくむ俺を見つけて、彼女のお兄さんがそう声をかけてきた。



『…あ…部屋からは出てきてくれました』


俺がそう言うと、彼女のお母さんは目を輝かせて、“様子を見てくるわ”と言って俺とは逆に階段を駆け上っていく。



『サンキューな、良之』


お兄さんの横で、守もタケも加藤もニヤケた顔をしている。



『…あ、あの、勉強を教えてもらえませんか?』


俺はすぐにお兄さんに視線を移し、そうお願いをした。



『え、とりあえずお茶をしてからで…』


『俺…桜坂に合格できたら、由莉さんに自分の気持ちを伝えようと思ってます。
 だから…絶対に合格したいんです。…そのためにはすぐにでも勉強をしないと…』


俺の焦りが伝わったのか、お兄さんはリビングのテーブルに国語、英語、数学、理科、社会の五教科の問題用紙を人数分広げた。


『今から出す問題は、過去10年分の県立の過去問をデータ分析して、俺が入念に作り上げた問題だ、この問題をお前ら全員に解いてもらって、そこから一人一人の得意、不得意分野を全て見つけさせてもらう』


俺はリビングに入り、問題用紙の前に座る。


守とタケ、そして加藤も問題用紙の前に正座して座り直し、お兄さんの号令を待つ。



『制限時間は一教科40分、準備はいいな?
 はじめ!』


そして俺たちは合図と共に問題用紙を広げ、お兄さん直々の問題に取り組む。

学校で学んだことなんて何に役に立つんだ、そう先生たちに問いかけたくなるくらいに難しい問題ばかりだった。


でも時間は刻々と進み、俺たちはいそいそとシャーペンを動かした。





そして全ての教科が終わり、採点の間、お母さんがいれなおしてくれた紅茶を頂いた。


『よし、採点終わり』



『…俺…全然出来なかった』

加藤の言葉に、


『一教科、40点満点、五教科で200点満点中、加藤はトータルで65点、菅原は80点、小島は75点、良之は85点、今のところ誰も半分の点数にさえない。
 確かに出来てない、全員、でもな、出来てないからこそ苦手分野が分かる、だから人はそこを克服しようと努力をするんだ、それにお前らが最初から満点とってたら俺のいる意味ないじゃん』


お兄さんはそう不敵な笑みを見せた。



『加藤は数学と英語、特に英語の読解が足を引っ張ってる、でもその代わりに社会がこの中では一番良かった、みんな英語や数学、国語の三教科は力をいれるけど、残りの二教科は若干手を抜く、その点ではお前は社会が手助けになるかもしれない』


そう言って加藤に解答用紙を手渡す。


『菅原は数学、理科が足を引っ張ってるみたいだな…。でも国語の読み取りはほぼ満点に近い、読解ができるなら数学の応用だって公式の使い方とかを基礎からやり直せれば点につながるかもしれない』

そう言って守にも解答用紙を手渡した。


『タケは四人の中で英語が一番良かった、二人と一緒で数学、それから社会が苦手みたいだけどその二教科を重点的にやればいけるかもしれない』

そう言ってタケにも解答用紙を手渡した。


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