コトノハの園で
アパートの中は想像よりもさっぱりしていて、よく見ると、健人が独り暮らしの時に使用していたものが大半を占めている。
「ああ。それはね、ここは仮住まいとして割り切ろうって。次は賃貸じゃなくて家買うつもりだから、そこに照準合わせて家具とか考えたいじゃない」
「そっか。無駄がなくていいね。それまで購買欲を抑えられるといいけど」
「そうなんだよーっ。健ちゃんとふたり、牽制し合ってるの。なにせ欲深いものですから」
「オレはそんなんじゃねえ」
数に入れられた健人が伊達さんにぶつぶつと言い始めたので、ここでようやくお土産のケーキを渡すことにする。
「わあっ、ありがと。森野君、ゆっくり座っててね」
「ありがとう」
いつものことだけれど、本気で言い争っているのでもないから、こうして他ごとを放り込むとすんなり消火となる。
キッチンから続くリビングでは健人がソファーに座っていて、僕はその近くの床に腰を下ろした。
「引越しおめでとうございます」
恭しく頭を下げると、気持ち悪いと一蹴される。
「なんだよ。調子悪い?」
「忙しくてあんま寝てねえ。なのに千花が早く透呼べって。――まあ、気が急くのは分かるけどな」
「急用?」
「いや。早くパーティーでもしたかったんじゃね? 透込みで」