コトノハの園で


昨日までは蒸す暑さがあったけれど、今日はそんなことはなく、開け放った窓からは涼しい風が運ばれてきた。窓の数が多いと空気の循環も独り暮らしよりか心地がいい。


こういうところさえもいいと思ってしまう。


……ほら、充分健全に羨んでるじゃないか。


鍋パーティーはすでに始まっていて、電磁調理器越しの健人と伊達さんは、さっきまでずっと野菜の入れ方を争っていた。雑だ粗暴だと、健人が伊達さんを責める。けれど、伊達さんは気にすることなく肉も野菜も豪快に放り込んでいく。


「もっと丁寧にしろよ」


「じゃあ健ちゃんがやりなよー」


僕はその光景を微笑ましく眺めながら、さっきまでの話題が途中だったのを思い出した。


「――それにしても、式場選びは大変そうだね」


「そうだよ~。しかも、アタシより健ちゃんがこだわるの」


「こだわるじゃなくて迷ってんだ。なまじっか選択肢が多いと決め手に欠ける」


「そのうち確信めいたものがあるんじゃないの? ここだって」


「……森野君。それは、まだまだアタシたちに式場をさまよい続けろと? いつか自分も痛い目見るよ~。ま、そんな甲斐性あったら褒めてあげるけど」


ガラにもなく、今日は伊達さんまでが健人のようなことを言ってくる。


「そういう意味で言ったんじゃないよ。それに、あるさっ……甲斐性」


冷たい視線に、弱々しく反論した。


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