コトノハの園で


だから、その手を握り返して、私からも傍へ。


飛び込んだ先の胸の中は、小さな私だけじゃまだスペースが余る。けど、ここは私だけのもの。


「こんなことしてて、香田さんが忘れ物とかで戻ってきちゃったらどうしよう」


でも、離れる気なんて全くない。


まるで、世界一の宝物に触れるみたいに、そっと抱きしめられる。感動するけど、壊れたりなんかしないから、もっと強くても構わないのに。


「だっ、心配ないと思います」


「等価交換って、なんですか?」


「そっ、それは……僕が連絡するのが筋なのは重々承知だったのですが、僕からだと電話にさえ出てもらえない可能性もあって、事件に伴う手続きをする香田さんに便乗させてもらい……すみません。日和りました。引き受ける代わりにと、香田さんの昼食代負担を当分、いえ時々、と。秤にかけることではないのですが、やはりお礼も必要で……すみません」


「怒ってませんよ。でも……」


「はい。――でも?」


脳みそが痺れて蕩けてしまっているから、こんなことも言ってもいい?


「すっごく頑張ってくれたのは嬉しいけど、ちょっと複雑。苦手は克服すべきだとは思う。けど、私だけの特権とかは、侵害されないようにしてくださいね? 私だけに、欲を出してください。――ちょっとだけ、このままの森野さんでもいいやってよぎった私は最悪なので、こちらも精一杯精進します」


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