コトノハの園で




 ―*―*―*―*―*―


「理由とか原因、あったんですか?」


僕の女性不信の理由を尋ねられたので話すことにした。


吹聴することではないけれど、ひたに隠すことでもない、ただただ情けないだけの過去だ。


「そっ、それはですね――……大学生の頃、家庭教師をしていた女子高校生に告白されて、好きになってしまいました。単純かもしれませんが、僕はとても真剣だった。ある日、妊娠していると、告げられました。堕胎するので費用が欲しいと。僕は反対しました。結婚しようと言いましたが、彼女は嫌がりました」


「……、はい」


案外平気で話せたのには内心驚いた。


けれど、まるで僕の身代わりのように深町さんが苦痛の表情をするものだから、笑い飛ばそうとした気持ちは、空振りさえ出来ないままに消滅してしまった。


「――抱えきれなくなった僕は、健人に、っああ、深町さんがカフェで見かけた親友に相談しました」


いつも反省はしている。けれど、今も変わらず頼ってばかりなことも実状だ。


「健人は、自分も彼女に会うと言いました。説得してくれるのかと三人で会うと、健人は、何故か彼女を問い質し始めました――どうやら、僕と彼女がそういう関係になったのと、赤ちゃんの成長のスピード、何週目というのですね。それが、合わないのだと。僕は、そんなのに気付けるほど大人ではありませんでした。――狼狽するばかりの僕に、やがて彼女は白状しました。同じ高校に彼氏がいて、その人との子どもだと。妊娠が判り、僕を利用しようと彼と考えたそうです……初めから計画に乗せられていたのか、遊びからだったのか、もっと違う何かがあったのか……」


それは、もう分かることはない。


「……分かっていたら、あのあと、もう少し楽だったのか、もっとどうしようもなくなってしまっていたのか、それが、少し気になるだけですけどね」


無知とは恐ろしいと、あの時初めて知った。


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