春を待ってる
やっぱり、俺の鼻に狂いはない。
これは俺の大好物の……
大きな鍋には大量のクリームシチュー。
美咲は俺なんて素知らぬふりで、華奢な手にお玉を握ってシチューをかき混ぜてる。
「貸してみ」
するっとお玉を奪い取るつもりだった手が空振り。
美咲がぎゅっと力を込めて、お玉の柄を握り締める。頑なに肩を突っ張らせる美咲の手を剥がそうとするのに、なかなか離そうとしない。
「いらないから、アッチに行っててよ」
「わかったよ〜、なんて言うと思う?」
ふっと耳元に息を吹きかけた。
きゃっと言って、美咲が体をくねらせる。その隙に、緩んだ手から見事にお玉を奪い取ってやった。
よっしゃ、俺の勝ち。
「もう……」
俺を睨んだ美咲は、僅かに眉を下げて口を尖らせる。潤んだ黒目はもしかすると……
俺を誘ってんじゃないの?