春を待ってる

やっぱり、俺の鼻に狂いはない。



これは俺の大好物の……
大きな鍋には大量のクリームシチュー。




美咲は俺なんて素知らぬふりで、華奢な手にお玉を握ってシチューをかき混ぜてる。



「貸してみ」



するっとお玉を奪い取るつもりだった手が空振り。



美咲がぎゅっと力を込めて、お玉の柄を握り締める。頑なに肩を突っ張らせる美咲の手を剥がそうとするのに、なかなか離そうとしない。



「いらないから、アッチに行っててよ」

「わかったよ〜、なんて言うと思う?」



ふっと耳元に息を吹きかけた。
きゃっと言って、美咲が体をくねらせる。その隙に、緩んだ手から見事にお玉を奪い取ってやった。
よっしゃ、俺の勝ち。



「もう……」



俺を睨んだ美咲は、僅かに眉を下げて口を尖らせる。潤んだ黒目はもしかすると……



俺を誘ってんじゃないの? 






< 5 / 19 >

この作品をシェア

pagetop