チョコレート・サプライズ【短】
まだ何か言いたげな店長をかわすようにホールに戻り、他のスタッフと仕事を熟す。


もちろん、全力のスマイルで。


店長の言う通り、さっきは仏頂面だった事は自分でもわかっている。


だけど、それは間違いなく経営者である彼のせいだ。


バレンタインである今日は休みでシフト希望を出したのに出勤するように命じられ、せめて早番にして欲しいという願いすらも呆気無く却下されてしまったのだから。


別に、人手不足な訳では無い。


現に今日休暇を貰っているスタッフは二人いるし、そのうち一人は私と代わってくれるとまで言っていた。


にも拘わらず、店長は断固として首を縦に振ってはくれなかったのだ。


普段から他のスタッフよりも異様に厳しいとは思っていたけど、これはちょっと酷いと思う。


「こんなの、職権乱用じゃない」


「え?」


空いたプレートやカップを持ってキッチンに行った時、思わずため息とともに心の声が漏れてしまったらしい。


慌てて顔を上げると、キッチンチーフを務める男性スタッフがキョトンとしていた。


「どうしたの?もしかして、またあいつにいじめられた?」


困ったように微笑む彼は、店長とは従兄弟らしいけど、同じ血が流れているとは思えないくらいに物腰が柔らかく、とても優しい。


図星を突かれて眉を下げれば、「やっぱり」と苦笑が返される。


「私、絶対嫌われてますよね?」


「え?あいつに?」


「だって、そうだとしか思えないじゃないですか!」


「いやぁ、たぶんその逆……」


「おい」


曖昧な笑みとともに零された言葉に「え?」と私が首を傾げたのと不機嫌な声が聞こえたのはほとんど同時の事で、咄嗟に振り向けば真後ろに店長が立っていた。


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