チョコレート・サプライズ【短】
「お前ら、口より手を動かせよ。減給するぞ」


「はいはい。うちの店長は鬼だよねー」


早くも降参とばかりに両手を上げて笑うその姿は、さすがは従兄弟だけあって店長の扱いには慣れているのがよくわかる。


「さっさと洗い物を片付けて来い。それから、お前にはバレンタインの装飾を片付けて貰う」


前半は店長の従兄弟である男性スタッフに、後半は明らかに私に向けて与えられた言葉に思わず目を丸くする。


「残業ですか!?」


「喜べ。後でみっちり説教してやるよ」


にやりと笑う店長に抗議したもののあっさり跳ね返され、結局はバレンタインの装飾を片付ける役割を押し付けられてしまった。


他のスタッフは気の毒そうにしながらも店長命令で帰宅していき、店内には今一番一緒に過ごしたくない相手と二人きり。


バレンタイン用にコーディネートされたテーブルをいつもの物に戻していく作業中、私達の間に会話はほとんど無くて最悪な雰囲気だった。


「あの、店長……。全部終わりました……」


バレンタイン用のテーブルクロスを段ボール箱に入れてから恐る恐る声を掛けると、最後のテーブルコーディネートを終えた店長が「あぁ」と短く答えた。


不機嫌なのがわかる声音は私をより憂鬱にさせ、居た堪れなくなる。


「お前は着替えて来い。それは片付けておくから」


何を言われるのかと身構えていた私に掛けられたのは、意外にもごく普通のもの。


「え?」


思わずまぬけな声を漏らすと眉を寄せられ、私は慌てて引き攣った笑みを浮かべる。


「すぐに着替えて来ます!」


逃げるようにその場を離れて更衣室に飛び込み、ようやく与えられた僅かな安堵に息を大きく吐き出した。



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