チョコレート・サプライズ【短】
着替えを済ませて更衣室を後にし、重い足取りでホールへと向かう。


すると、ホールの真ん中に位置するテーブルにドンと座っている店長の姿が視界に飛び込んで来て、思わず足を止めてしまった。


だけど…


「何突っ立ってるんだ、早く来い」


ほんの数秒の猶予すら与えられず、やっぱり黙って帰しては貰えないのだと肩を落とす。


仕方なく店長の向かい側に腰を下ろせば、彼はテーブルに置いていた掌サイズ程の小さなペーパーバッグを私に押し付けるような勢いで差し出した。


「……何ですか?」


「やる」


「え?」


短く告げた店長の意図がわからなくてキョトンとしていると、本当にペーパーバッグを胸元に押し付けられてしまった。


反射的に受け取った私は、頭の中に大量の疑問符を浮かべながらも中を覗き込む。


そこに入っていたのは、コンビニなんかで買える一口サイズのチョコレート。


確か、金額的には一つ20円か30円程の物だけど…


ペーパーバッグは外見から想像していたよりも重く、その小さなチョコレートは明らかに20個以上は入っているようだった。


「何ですか、これ」


「チロリンチョコ」


「いや、それは見ればわかります」


「そういう事じゃなくて……」と口にしたところで、店長がため息とも深呼吸とも取れるような息を盛大に吐き出したから、続けようとしていた言葉を咄嗟に飲み込んだ。


「バレンタインだろ、今日。だから、やるって言ってんの」


「はぁ……」


「それと、こっちはおまけ」


だから何故それを私にくれるのかという疑問を投げ掛けようと口を開いた時、今度は今持っている物よりも少しだけ大きなペーパーバッグが目の前に置かれた。



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