ショータロー☆コンプレックス
あ、確かこいつは…。


「『お疲れ』って声かけてやったのにおざなりに返事しやがって。きちんと目を見て挨拶するのが基本だろが。お前、どこかから派遣されて来てんだろ?そういうとこちゃんとしとかないと、今後仕事を回してもらえなくなるぞ」


「え。あ、すいません…」


って、それを言う為にわざわざここまでオレを追いかけて来たワケ?


すごい執念深さ。


この男もエキストラの一人で、同じく喫茶店でのシーンに出ていた奴だった。


ただし、『喫茶店のマスターと和気藹々と会話している所に強引に割り込まれ、不機嫌な表情で刑事に視線を向ける青年』という、オレより難易度の高い役処だけれど。


つーか、それよりも何よりも。


「ところであの、オレの名前「みどり」じゃないんですけど」


その言葉に、男は鼻を鳴らしつつ答えた。


「お前の名前なんか知るかよ。衣装で緑のカーディガンを着てたから、とっさにそう呼んだだけだっつーの」


「あ、さようですか……」


「ところでこれ、お前の?」


男はいきなり話題を変えると、目の前にある車を顎で示した。


「あ、え~と…」


「ハリアーなんてすげーじゃん。こんなバイトしてるくせに、随分金持ちなんだな」


そう言いながら車のあちこちに視線を向けていた男は、ナンバープレートを見るなり「あ、なんだ。レンタカーか」と呟いた。
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