僕と、君と、鉄屑と。
 どうしたものだろう。今まで、どんな問題でも、どんなトラブルでも、僕は解決してきた。だけど、こんな問題は、扱ったことがないし、マニュアルもセオリーも、わからない。
 ちょっと、整理してみよう。麗子は今、直輝のことを好きになっている。直輝はハンサムだし、優しいし、その逞しい体からは想像できないほど、抒情的。女性なら、好きになって当然だろう。だが、麗子はカリキュラム中から、直輝に会いたがっていた。そして、初めてパーティに出た夜、一人になって、泣いていた。応接室で、手荒な扱いを受けて、帰ると言ったのに、急に、やはり契約すると言った。あの時は、金が目的かと思ったが、違ったのかもしれない。
 ふむ。問題は、その辺りにありそうだ。僕はふと、麗子の部屋から引き上げてきた、あの手帳らしきものの存在を思い出した。結局広げることもなく、デスクに入れっぱなしになっている。

 オフィスに戻り、デスクから、それを出した。これはいったいなんなのか。レザーの表紙を開くと、中は手帳ではなく、アルバムだった。何枚かの写真があって、そこには、CAの制服を着た麗子が笑っている。そして隣には、パイロットの制服を着た男がいる。どうやら、この男は、麗子の恋人のようだ。そして、最後の写真を見て、僕は、はっとした。最後の写真だけ、その恋人らしき男は帽子をとっていて、顔がはっきり写っていた。
……似ている。その男は、直輝に、よく、似ている。写真の日付は、三年前。ふむ。そうか。振られたのか。振られて、ヤケになって、CAを辞めて、荒れた生活を初めて、でもこの恋人が忘れられなくて、顔の似ている直輝を好きになった。単純だ。くだらない。やはり女は、くだらない。
 僕は部下として、状況を正しく直輝に伝えることにした。
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