【短編】七夕奇譚

(これ………、田町さんの…………?)


どうやらサキも気付いたらしい。怖ろしいものを見るような目で、リノリウムの床を見ている。







人間の体内では、様々な体液が絶えず循環、分泌され、さらに不要物は排出されている。


血液は酸素を運び、老廃物は汗や尿として、消化された食物は便として体外に排出される。


だが、ひとたび生命活動が停止、つまり死を迎えると、人体は体液や不要物を循環させたり、体内に溜めておいたり出来なくなる。


だから、何も処置せずに遺体を放っておくと、それらは重力に従って、遺体の穴という穴から出てこようとするのだ。


それを防ぐ為に、臨終の後、看護師が遺体にある穴のすべてを綿花でふさぐ処置を行う。


だがそれも腐敗が進むと全くの無意味となる。風船に水を入れて口をしばっても、風船自体に穴が開けば容易に水は漏れてしまうのと同じだ。


だからそうなる前に、遺体を火葬するのだ。







(誰かが…………田町さんの遺体をおぶって運んだのかな………?)


だとすれば、この点々と続く水のあとも納得できる。


どんなに穴をふさいだところで、尿道口や肛門が下を向けば、やはり体液や尿などが体外に出てしまうのだ。


つまり、この後をたどれば……………!


「サキ、長瀬さんへの報告はあと。

…………行くわよ。」


「えぇっ?!セ、センパイッ!!」


それだけは勘弁して、とでも言いたかったのだろうか。


でも私は、その時すでに水たまりを追って、一階への階段を昇ろうとしていたのだった。





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