*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
――キィ……

ブレーキをかけて自転車を降りた。


もう一人のわたしが囁く。

『やめなさい』って。

でも、体が勝手に動く。


自転車を押しながらUターンさせると、既に10メートルほど進んだ道を戻った。

金網越しに公園の中を覗く。

目の前にある大きな木が視界を邪魔する。

それでも見えた。

枝の向こうには、園内の灯に照らされた二人の姿。

見覚えのある制服と……

そして、見間違えるはずの無い髪形。


心臓がきゅうって小さくなるように感じた。

その瞬間、ハンドルをブレーキごと握り締めてしまった。


――キィ……


静かな路上に自転車特有のブレーキ音が響いた。



シィ君……。

女の子を抱きしめたまま、彼はわたしの視線に気付いた。

さらに彼の腕の中の彼女は何かを感じ取ったのか、後ろを振り向く。


振り向くまでもなかった。

腰まで届きそうな豊かな黒髪。

彼の腕の中にすっぽり納まった華奢な肩。

彼女が誰であるかは、もうわかっていた。
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