*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
「シィ君……。どうしたん? 忘れもの?」


「うん」


シィ君は教室に入り、わたしの横にやってくると、スケッチブックを覗き込んだ。


「教室、描いてたんや」


「うん。記念になるかなって思って」


「そっか。オレ、ちぃちゃんは美大に進むんかと思ってた」


そう言いながらシィ君は、わたしの隣の席の机の上に座った。


「まさかー。そんな才能ないもん」


わたしは地元の大学の文学部を希望している。


「才能とかってオレよくわからんけど……。ちぃちゃんの描く絵、好きやねん」


「え? ほんま? ありがと……」


「うん。なんかあったかいっていうか。ほのぼのっていうか……。ちぃちゃんそのものって感じがする」


褒めてくれてるんだよね。

なんか照れちゃうなぁ……。



「そう言えば……あそこ行った?」


「え? あそこ?」


「うん。安佐川。前に絵、描いてたやん? あん時、蛍、見たことないって言ってたやろ?あれから見にいった?」


シィ君のその言葉に驚いていた。

あれは1年以上も前の美術室での何気ない会話だった。

シィ君、覚えてくれてたんだ……。

< 370 / 417 >

この作品をシェア

pagetop