最後の恋にしたいから
その涙を課長は指で優しく拭うと、私の手をそっと握った。

「仕事を辞めようと思った時もあったし、自暴自棄になった日々もあったけど、その未送信メールに救われたんだよ」

「どういうこと?」

また込み上げそうになる涙を抑え彼を見つめると、穏やかな笑顔を見せてくれた。

「沙希は、未来を見たがっていたんだ。それなのにオレが、未来を悲観してどうすんだろって思ってさ。前を向くことが、自分の責任だと思った」

「そっか……」

なるほどね……、でもだからって、沙希さんを吹っ切れるのとは違うと思う。

納得しきれず言葉が出ない私の心を見透かしたように、課長は一呼吸置いて言ったのだった。

「奈々子が見たものは、供養して手放すつもりだったんだ。もう少し、早くすれば良かったって思ってる。それから雨の夜、沙希と重ねて見てしまったのは本当だ。だけど、奈々子は沙希と違う。オレは奈々子と出会って、もう一度人を好きになりたいって思ったんだ」

その言葉に嘘はないと分かるけど、もっと自分を安心させたくて、さらに問いかけてみた。

「でも、安藤課長に言われたのよ? 私と沙希さんは雰囲気が似てるって」
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