最後の恋にしたいから
「あっ、名越課長⁉︎」

彩乃はパッと表情を明るくさせて、課長に満面の笑顔を向ける。

それとは反対に、私は思わず俯いてしまった。

週末のデートが思い出されて恥ずかしい。

やっぱり、社内で顔を合わせるのはかなり意識してしまう。

「名越課長が、ここへ来られるなんて珍しいですね。何かあったんですか?」

彩乃ってば、課長のファンなのに緊張しないのかな?

私なんて声をかける勇気もなくて、仕事をする振りをしてパソコンに向き直ってしまった。

一応、手はマウスを動かしてデータを見ているけれど、耳は二人の会話をしっかり聞いている。

「ああ、ちょっと三課の課長と擦り合わせしたいことがあって。そしたら、二人の楽しそうな声が聞こえてきたから、つい話しかけちゃったよ」

愛想良く答える課長に、彩乃な機嫌良く「そうなんですかぁ」と返している。

そして私はというと、そんなたわいもない会話にさえ、入ることが出来なかったのだった。
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