ぺピン
バタンと、冷たい音を立てて閉められたドアの前で恭汰は立ちすくむことしかできなかった。

「――好きな人、か…」

呟いて息を吐いた後、恭汰はドアの前から立ち去った。

高校時代に京香が言っていた好きな人と結婚したのかも知れない。

どう言う理由でいなくなったのかはよくわからないが、その人との間には子供ができていた。

全く変わっていない美貌とクールな性格はそのものだったが、京香を取り巻く環境の方は自分が知らない間にすっかり変わってしまっていた。

「――俺は初恋を忘れることができないままなのにな…」

今でも引きずっている初恋が、恭汰の胸を強く締めつけた。

すっかり日が暮れてしまった空に向かって、恭汰は息を吐いた。
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