楓の樹の下で
朝から体が重い。
いつまでも、山科くんから逃げてるわけにはいかない。
あの歩道橋の次の日の新聞には、ただの事故となっていた。
誰も山科くんを見てないんだと、少しホッとした。
私が見たのは間違いなく山科くんの手で、山科くんが男性を突き落とした。
けれど、あの子を取り巻くものが何なのか知りたかった。
きっと、鏑木さんも少なくともその想いはあるから、私に黙っててほしいと言ったに違いない。
今日は学校へ行こうと決めた。
決めたけど、体が、心が拒絶する。
でも、逃げてても駄目だ。と自分に言い聞かす。
学校に着いた。
授業を知らせるチャイムが鳴る前に教室へと向かう。
扉の前に着くと同時にチャイムが鳴った。
覚悟を決める。
扉を開け教室に入っていく。
すぐさま山科くんの視線を感じる。
恐怖で見ることさえ出来ない。
無事に今日を終らせたい。
授業中、あの子ば何かを考えているのがわかった。
ばれないように何度か確認していた。
全ての授業が終わり生徒たちが帰っていく。

山科くんのすは姿をあらわせない。
嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかない。
見送る途中携帯を取り出し鏑木さんの番号を出した。
今話せば聞かれるかもしれないと思った。
じゃどうして伝えればいい?

最後の生徒が帰っていく。
山科くんは出てきていない。
まだ教室に残っている。
いつもと変わらず話し掛ければいい。
そんなことでやり過ごすことが出来るとは、思っていない。
ポケットの中の携帯を出し、発信ボタンを押した。
鏑木さんが出たことを確認すると、音声の音量を最小にして、ポケットに入れて教室へと入った。

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