オレンジロード~商店街恋愛録~
「まぁ、この町に来る前に売っちゃったけどね」


レイジは肩をすくめて言った。



レイジほど顔のいい男が、どうしてこんな何の変哲もない町に来て、あんなショボい酒屋でバイトしているのかは知らない。

しかし、ハルはそれを聞き出そうという気はなかった。


腹を探られて嫌だと思うのは自分も同じだからだ。



それでも、ハルはどこかでレイジと自分を重ねてしまう。



「大好きなバイクを売って、後悔したことねぇの?」


レイジは「どうかな」と苦笑いして、



「かなり手を入れてたし、大事にしてたからもったいないっていう気持ちはあったけど、それを捨ててもいいって思えるものに出会えたから、別に」

「………」

「それに、今はスティードがなくなっても、バイクを好きって気持ちに変わりはないわけじゃん?」


でも、失ったものを未だに好きでいるって苦しくならないか?

ハルは喉元まで出掛かった言葉をどうにか飲み込んだ。


俺の中の時間はあの頃で止まったままだ。



「なぁ、もう仕事終わったんだろ? 久々に飯行かね? 浩太のところとか」

「うーん。でも、ごめん。今日はこのまま帰るよ。また誘って」


レイジは爽やかに言って、出て行った。




何だかなぁ、とハルは思う。



人当たりはいいくせに、必要以上に他人との距離を詰めたがらないレイジ。

謎だらけなやつだ。


けど、だからこそ、レイジとは着かず離れずのところで仲よくしていられるのだろうとも思うから。

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