オレンジロード~商店街恋愛録~
はっとした。

そうだ、あたしは今、ここで元カレとの再会に懐かしさを覚えてる場合じゃなかったんだ。



「あたし今、急いでんの! 緊急事態なの! 一刻を争うことなの!」

「便所?」

「違うわよ!」


突っ込んで、再び家まで急ごうとした結だったが、そこでふと、ハルが手に持っているものに目が行った。


スーパーの買い物袋。

半透明のその中には、確かに牛乳のパックが。



「ハル!」


いきなり呼ばれたハルは、びくりとするが、そんなことを気にしてはいられなかった。



「それ! それちょうだい! 今すぐに!」

「……は?」

「牛乳! 子猫に!」


言いながら、結は胸の中にいる子猫をハルに見せた。

ハルはそれをまじまじと覗き込み、



「何? 拾ったの?」

「早く栄養のあるものあげなきゃ、この子、死んじゃうかもしれない! でも、あたしのうちは、商店街の向こうの一番端でしょ? 帰ってる間にこの子に何かあったら」

「いや、だからってお前、この場で皿もないのにどうやって」

「いいから、早く! この子に何かあったら、ハルの所為だよ! ハルが見殺しにしたも同然だよ!」

「お前なぁ」


呆れた顔で肩を落としたハルは、少しの間を置き、諦めたように言った。



「わかった。来い」


手招かれ、結はハルの後に続いた。

すぐそこにある路地裏に入り、20歩と進まないうちに一軒の家の前に到着し、ハルは鍵を空けてそこに入っていく。


それがハルの実家であることはわかっていたが、深く考えている時間はない。


ハルは皿に牛乳を入れ、さらにそこに細かく千切ったパンを入れて、それを床に置いた。

結は恐る恐る、子猫を皿の前に降ろした。
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