イケメン同期に素顔を見抜かれました



櫂が、得意先への挨拶を終えてたどり着いたのは、芽衣の住む街の市役所だった。

ここには、芽衣の姉が勤めている。

話を聞く限り、芽衣はこの姉のことがとても大好きだ。

そして、かなりの信頼を寄せている。

お姉さんの力を借りることが出来れば、この状況を打破することが出来るかも知れない。

そう思った櫂は、藁にもすがる思いで市役所へとやってきていた。




市役所内へ入った櫂は、周りをキョロキョロと見渡す。

芽衣の姉の名前は確か、雛子だった。

名前はわかるのだが、勤めている部署がわからない。

近くを歩いている職員に尋ねるのも不審がられるだろうか。

そんなことをして、芽衣のお姉さんに迷惑がかからないだろうか。

そんなことを考えていると、目の前から小柄な女性が歩いてきた。

見た感じ、話しかけやすそうで優しそうだ。

この人なら尋ねても大丈夫かも知れない。

そう思った櫂は、その女性の方へと歩を進めた。




「あの……」

「はい、何でしょうか?」

櫂の呼びかけに、女性がニッコリ、笑顔で応える。

「えっと……」

思わず下を向くと、彼女の胸の名札が視界に入った。

「あの、崎坂雛子さんですよね。崎坂芽衣さんのお姉さんの」

「……ええ、そうですが……?」

「お、俺、有村櫂っていいます。芽衣さんの職場の同期で」

「あ、芽衣の。初めまして」

最初は戸惑った表情を見せた雛子だったが、芽衣の名前を聞いて表情が和らいだ。

「すみません、突然。あの、崎坂さんにお願いがあって」

「私に?」

「はい、どうしても助けてほしくて……」

「有村くん」

「はい」

「私、芽衣の事傷つける人は承知しないからね。そういう話ならお断りよ」

見た目とは裏腹な、雛子のはっきりとした物言いに櫂の背筋も自然とのびる。

「俺、崎坂のことを傷つけようなんて思ったことはありません」

「わかった。じゃあ有村くん、道路挟んだ向こうの喫茶店で待っててもらっていいかな? 私、あと5分で休憩だから」

「はい! お願いします」

勢いよく頭を下げる櫂に、雛子は笑顔を見せてくれた。



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