不機嫌な君
…ゆっくりと金崎部長を見上げると、ハッと我に返った金崎部長は私から離れた。

「…悪い、セクハラする男が嫌いとか言いながら、俺もアイツと同じ事を」
そう言って目を泳がせている。

…確かに驚いたけど、そうしてくれたおかげで、涙は止まったし、落ち着いた。
「いいえ、今のはセクハラとは違います・・・落ち着けました。ありがとう」

そう言って微笑むと、金崎部長は少しばかり頬を染め、私から顔をそむけた。
・・・恥ずかしさを隠す為だろうか?

何とも言えない空気の中、それを破ったのは金崎部長の携帯。
「…分かった、すぐに戻る。・・・帰るぞ、島谷」

「・・・はい」

いつものようなキリッとした表情に戻った金崎部長は先に歩き出す。
私は2歩遅れて、金崎部長の後を追いかけた。

「…どうしたの、ひとみちゃん?」
私の顔を見てそう言ったのは葉月さん。

「・・・え?どうしたって?」
私は葉月さんの言葉が理解できなかった。

「泣いたの?…涙の痕、あるよ?」
「え?!…いえ、これは、・・・あ。目にゴミが入ってですね・・・。
ちょっと化粧直してきますね」

葉月さんに心配かけまいと、私はウソをついてポーチを持つと、化粧室に向かった。

「・・・はぁ、ビックリした」
鏡の前、溜息をつき呟く。

・・・そしてさっきの事を思いだし、赤面する。
・・・確かに落ち着いたけど、・・・金崎部長の咄嗟の行動だろうけど。

私は確かに、金崎部長に抱きしめられた。
今頃になってドキドキする。

不機嫌な君で、誰からも怖がられてる金崎部長。
だけどその完璧な容姿で、隠れファンは多数いる。

そんな彼に私はしっかりと抱きしめられてしまった。
どうしよう、どうしよう・・・。

焦る気持ちを落ち着かせながら、オフィスに戻る。
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