不機嫌な君
オフィスに帰ると、金崎部長はもう出社していて、デスクで仕事をしていた。・・・その姿が、本当に様になる。金崎部長は素敵な人だ。口は悪いけど、社員の事をしっかり見ている。

…私の愛してやまない人。

・・・その気持ちさえも、もう、届かないのかと思うと、もう、どうしていいか、分からなかった。

デスクに座り、仕事を始める。・・・こんな気持ちのまま、仕事に集中できる筈はない。でも、失敗を繰り返せば、金崎部長に迷惑をかけてしまう。…何かに感づいてしまう。

そうならないように、私はいつも以上に仕事に集中した。…昼休みは、葉月さんと楽しくランチをして、午後からはまた仕事に集中した。…それでも、仕事は終わらず、残業する事になってしまった。

一人、また一人、社員達が帰っていく。私は少しでも早く終わるよう、仕事に励んだ。

「…終わったのか?」
「・・・金崎部長」

…いつの間にか、オフィスには、私と金崎部長だけになっていた。

「終わったのかと聞いてる」
「…え、あ、終わりました。…すみません、片付け次第直ぐオフィスを出ますので」

「・・・」
私の言葉に、応える事もせず、金崎部長は、黙ったまま私を見下ろしている。
私は困惑顔で、金崎部長を見上げた。・・・でも、ずっと見ている事も苦しくなってきて、パッと目線を逸らしてしまった。

「…島谷」
「・・・はい」

「・・・頼むから、俺の言う事を聞いてくれ」
「・・・え?」

「昨日から、明らかにお前の態度がおかしい…一体何があった?俺が会社に来ていない間に、何があった?」
「・・・」

すべてを打ち明けたら、金崎部長はきっと、社長に怒ってくれるだろう・・・。優姫に、しっかり自分の気持ちを言ってくれるだろう。でも、そんな事は言えない。

「金崎部長」
「なんだ?」

「…これ、お返しします」
「・・・?!」
私は、金崎部長がくれた婚約指輪を、手のひらに乗せた。
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