代行物語
先輩が…
先輩が代行屋さんを始めたらしいという情報が佳夫の耳に入ったのは年の瀬も押し迫った12月のことだった。
先輩の名前は小泉タモツ、歳は佳夫の五つ上だ、タモツと佳夫が初めて会ったのは二十数年前、まだ佳夫が小学生の頃だった。
普通、五つも歳が離れていれば、そう接点は無いものだが、佳夫の育った地区はかなりローカルな(過疎地では無い)地区だったので小学校に入学すると、もう皆顔見知り状態になってしまうのだった。上級生は良く下級生の面倒を見てくれて頼れる存在なのだ。
タモツの印象は、面倒見の良い親分肌の人間と記憶している。

タモツさんが代行屋さんか…

酒が呑めない佳夫にとっては、無縁の職業だなと佳夫は感じていた。

その日、佳夫は朝から地元のイベントの準備に追われ大わらわになっていた、ようやく一息就けたのは、昼もとうに回った頃のこと、ろくに昼御飯も食べずに準備に取り掛かっていたので、空腹を通り越して、少し気持ち悪い感覚にとらわれていた。
イベント会場から少し離れたベンチに腰掛け、重く垂れ込める冬空を見上げ深いため息をついた。
12月の声を聞くと何故か忙しく感じるのは、皆おなじだろうか?
そんなことを考えながら佳夫は冷めた缶コーヒーを一気に飲み干した。
忙しく行き来する仲間達を横目に見ながら、タバコに火をつけ、ベンチの背もたれに身を預けていた。
周りの活気のせいだろうかさほど寒さは気にならないそういえば、今年は暖冬だとニュースでやっていたのを思い出し、くゆれるタバコの煙と冬空の境を探しているのだった。
とその時、遠くの方から佳夫を呼ぶ声!
『佳夫!』
佳夫は声のする方へ視線を移すとそこには、満面の笑みを浮かべ、こちらに向かってくるタモツの姿を捉えていた。
タモツもイベントの準備に参加していたらしく、久しぶりに見かけた佳夫に声を掛けてきたらしい。
昔の面影を残す顔立ちと、時の流れを感じさせる体つきは中年特有のそれになっていた。タモツの名誉の為に言っておくが、貫禄が付いたと言う表現の方がいいだろう。
他愛ない会話から昔話そして仕事の話しへと進んでいた。佳夫はタモツから繰り出される未知の世界の話しに興味深気に聞き入るのだった。
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