代行物語
代行は待ちの商売(受けの商売)で自分からお伺いを立てて仕事をとることができないPRは自分で飲みに行ったついでにお店にアピールするとか、知り合いにやってますよ飲んだときは呼んでねといった口コミでお客を取るのが一般的なのだ、当然、親戚、知人の多い人は沢山のお客を持っていることになる、大手の代行会社なら折込広告とか、地方ラジオCMなどで広まるケースもあるらしいが、ローカルな地区の実に小さい代行屋さんは、やはり口コミが一番の方法といえるのである。
佳夫の初出勤も、やはり待機からのスタートだった。
スーパー等の駐車場で仕事の入りを待つのである。基本的には、待ち時間は仮眠をとったりするものなのだが、今は携帯電話という強力な暇つぶしアイテムの存在で随分待ち時間が有意義に過ごせるようになっていた。
代行は二人一組で依頼主の元に行き、依頼主の車を文字通り代行運転し目的地まで運ぶ仕事である、佳夫の今回のパートナーは、通称川ちゃん(川口だから)であった。
川ちゃんは昼間運送関係の仕事をしているため、土地勘は抜群で代行暦も3年とベテラン運転手だ、タモツの右腕的な存在で新人が入ると大抵川口とペアになるらしい、ここで代行の”いろは”を学ぶのだ。
待機中に川口から、焦らないで、安全確認はしっかりね、速度の出し過ぎに注意・・・など諸注意を聞きながら、代行車と言えば夜の町を凄いスピードで疾走するイメージがあるのに結構しっかりしてるなと佳夫は思っていた。
時間は夜9時を少し回った頃、受付用の携帯電話が突然鳴り出した。
タモツ「お世話になります・・・・・居酒屋天武さんですね・・・・林様・・・いつもありがとうございます」
無線から「1号車居酒屋天武、林様」
1号車「・・・・・」
無線から「1号車??」
佳夫「あっ!!ハイ1号車、了解!」
佳夫は自分が乗っているのが1号車であることをすっかり忘れていた、しかも無線機から聞こえてくる声を聞き分けるのは少々経験が必要だということも、この時納得した。
川口は、慣れたものでそれじゃ行きますかとばかりにシートベルトをロックした。



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