鬼姫マラントデイズ
「律希さん、私を元に戻してくれてありがとうございました」


「……いえ」


「それと…

あなたの任務範囲でないところで物の怪化していた娘を…

あなたの家へ、連れないでくれて…ありがとうございます」



「……それは、霧花さんに礼を」



あら、そういった彼女は微笑んだ。




「……分かるんです、私には。

物の怪化した妖が陰陽師の家に連れて行かれた後の、末路が……」




小さい声で、そう言った。




側にいた金鞠にも、静かな律希にも届かない声で。




目の前にいる人だけに聞こえるように言った。



……自分でも分かる。

声が、体が、震えているのが…









「……あなたをどこかで見たことがあると思ったら。

やはり、鬼の…お嬢様でしたか」


「元、ですがね」


「……だからあなたには分かってたんですね、金鞠が行くはずだった道の終着点が…


本当に、ありがとう…あなたも苦しいでしょうに…」



大丈夫です、そう私は明るく言って笑顔を見せた。


それに悲しそうな表情を浮かべた彼女は、気付いたんだと思う。



……私の今の笑顔は、偽りに過ぎないと。



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