花の下に死す
 鳥羽上皇。


 璋子よりは少しお若い。


 繊細そうなお方だ。


 義清は鳥羽院には幾度か、御簾越しに対面を許されたことがあり、和歌方面の名声にはお褒めの言葉をいただいたことがある。


 しかし面と向かって対峙するのは、もちろんはじめて。


 予期せぬ遭遇に義清は戸惑い、言葉を発するどころか身動きもできずにいた。


 「璋子の屋敷でこれから面白い余興が見られると得子に言われ、宴を抜け出してわざわざ訪れてみたのだが……。これはいかなることぞ」


 鳥羽院は尋ねてきたが、答えるまでもない。


 これは上皇の妃と武士との密通現場。


 「院、少々手違いがありまして」


 璋子の片腕である堀河が慌てて飛び出してきて、弁明を試みたが、


 「そなたは黙っておれ、堀河」


 鳥羽院は堀河の口出しを禁じた。


 堀河は退かざるを得ない。


 「……大それたことをしてくれたな」


 鳥羽院は璋子に詰め寄った。


 「帝の母として、国母として、いささか軽率な振る舞いではあるまいか」


 院の冷たい目に、璋子は恐れおののくばかりだ。
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