花の下に死す
 あの日、御簾の隙間から璋子の姿を見ていなければ。


 義清は人生を踏み外すこともなかっただろうし、璋子の運命を狂わせることもなかったかもしれない。


 「義清どのがいなければ、璋子さまは生涯、ぼんやりした闇から抜け出すことはできませんでしたわ」


 「だが私は、璋子さまを不幸にしてしまった」


 「鳥羽院とお心がすれ違ったまま、中途半端な状態で毎日を過ごしていた今までのほうがずっと、お二人にとってはご不幸でした。少なくとも私はそう信じます」


 その瞬間、今まで持ちこたえていたかのような空から、どっと雨が溢れ出した。


 雷雨。


 今年の桜も、一斉に散ってしまうだろう。


 璋子は女房たちに連れられて、屋敷に戻った。


 義清は堀河に見送られて、帰路に着いた。
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